海賊版

海賊版を出した頃だろうかその少し前だろうか...
この頃、無けなしの金を掻き集めて、俺たちは凝りもせずツアーを回った!
某ライブハウスで、ライブが終わり楽屋へ戻ろうとした時事件は起きた
いや、すでにソレは起きていた!
俺たちを手伝ってくれてる荘七(そうしち)が凄い形相でコッチへ走ってきた!
(以下、荘七=7、陽二郎=2)
7「楽屋へは戻らないで下さい!大変な事になってます!」
2「は?!どうしたんだ?!」
7「バーニングです!」
2「は?」
7「神戸イズ・バーニングです!」
2「まぁ落ちつけ!荘七!一つしか言えない英語を
無理に使う事もない、何をパニクってんだ?!」
7「燃えてます!」
俺はその燃えてる荘七が愛おしくてたまらなかった!
こんなにも、俺たちに燃えてくれているんだ…
俺が男でなければその場で抱きしめチュウをしていたのは
間違いない
毎回ライブが終ったあとは7にはラーメンしか食わせてないから
今日は豪勢に寿司でも食わせてあげたくなり、
俺の目は涙で霞(かす)んで、目の前が見えなくなった
荘七がしきりになんか言ってやがる
2「うんうん、分かってるお前の気持ちは!今日はたんまり寿司を…」
と、よく見るとあいつの顔はススだらけでアマゾン流域の原住民みたいな顔に変貌していた。
槍を抱え、ウホウホ言って踊っていたら間違いなくマサイ族と間違え生贄を捧げる所だ!
2「どうしたんだセブン?お前のその顔!燃えてるってどう言う事だ?!
はは~んさては、お前焚き火してやがったな?!
道理でライブ終わる間近にいなくなったと思ったら、
どっかで焼き芋でも焼いてやがったのか?!」
7「アババババー!楽屋イズ・バーニングです!!!
フンガフンガ!楽屋イズ・ファイヤーシーです!、
もしくはファイヤージャパニーズドールです!!!」
・・・何だ、3つも英語覚えていたのか!
ファイヤーシーって、火の海って事か?しかし、ジャパニーズドールってなんだ?
・・・
あっ!
俺はクイズの早押しチャンピオンになったつもりで
ボタンもないステージの裏、心の中で絶叫した!
(ダルマだーーーっ!火だるまの事かー!)
しかし、そんな英語ってあるのかな・・・
いやいや、そんな事に感心してる場合じゃない!
2「どう言うことだ7?!」
7「か、火事です!」
2「な、何ーーーー!!」
楽屋へ荘七を盾にして恐る恐る進んだ
先にバーニングしたくないからな!
・・・
楽屋は丸焼け状態だった
ライブハウスの人や、スタッフ達が一生懸命に鎮火した後だった・・・
ライブ後、一息入れてお姉さんに肩でも揉んでもらいたい所だが
検証が始まった
みんな罪のなすり合いなのは言う迄もない!
いや、オイ(俺)はタバコ吸っとらんし!
いやいや、オイこそ滅相もない!タバコなんか楽屋では吸わん主義やけん!むしろタバコてなんや?
いやいやいや、惜しかったね~!オイこそここで白状すっけど昨日禁煙したもんね~!
ふっ!みっともない、俺は堂々と言ってやりたかったよ!
俺が火の海にしたんだ!文句あるヤツは外に出ろ!ってね
しかし周りの真剣な顔を見渡すと、それは得策じゃないと言う事にスグに気付いた
俺は警察犬みたくホシをつぶさに調べはじめた!
確か、ライブの本編終わって楽屋に戻った時は何事もなかったよな~
その後俺たちがアンコールでステージへ行った後ホシは行動を起こしやがったな?
かずきを除く俺たちの荷物は無事だった
あいつの汗でビッショリだった筈のヴィヴィアンのシャツが
ヤツのドライヤーのコンセントの上で黒焦げになってた
しかも、あいつの財布は燃えて犬のウンコみたくどす黒い色に変貌していた
あいつが真っ青な顔して財布を開けた
と言っても開けるほど状態は良くなかったのでそろりと札入れの所をめくった
灰になった万札が淋しくボロボロと崩れて床へ落ちた
あいつの所持金はこの時点でジャラ銭のみと決定付けられた!
俺はコロンボばりの脳みそをフル回転させ検証を進めた
<コンセントの上にステージでたらふく流したあいつの汗を
コレでもかって程吸ったヴィヴィアンのシャツ・・・>
それ以上ホシを見つける必要もなくなった
ただ、残念な事に、カズキはツアー中の全ての財産を失った後だ!
あいつをつつくのはガソリンに火を点ける様なもんだ
いや、洒落ではない!
カズキを除く俺たちはそれ以上は口を閉ざした
事務所も失った俺たちの前に更に問題が起きたのは間違いない!
楽屋のエアコンからなんから溶け落ちてたからな!
その日貧民になったカズキを俺たちはなだめ、ビールとラーメンを奢ってやり、
シンとした車の中、ホテルへ向かった
その後、テルがライブハウスと綿密に話を付け事件は終息した
ライブハウス側は凄い寛大な対応をしてくれた
17年ほど前の話だろうか...
もうとっくに時効だろうけれど、未だ犯人は捕まっていない...
その日、荘七が寿司を食いそびれた事は言うまでもない
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ROCK 'N' ROLL PEARL HARBOR

事務所が崩壊して数ヶ月立った
俺たちにはもう所属する事務所も無くなり、マネージャーや、
それまで、給料制で手伝ってくれていたローディーやスタッフも失った…
その時に残ってくれたスタッフは今でも手伝ってくれて本当に感謝している
専属事務所、専属レコード会社が無くなると言う事は
宣伝活動を狭い範囲内に限定される事で、
みんなにアピールする場所をかなり、制限された
俺たちはコレといった楽曲を作れず悩んでいた所、
タイチローと共同で"缶ビールとスゥエードシューズ"を作った。
91年の年末から休止していた俺たちは
92年6月、一発目に千葉は市川のCLUB GIOで、スタートを切った
久しぶりのLIVEでみんなにアピールする為に、みんなは知るはずもない
"缶ビールとスゥエードシューズ"を一発目に持ってきてLIVEをやった
新曲を一発目にやるのはリスクがあったが、
それが待っていたみんなへ俺たちからの感謝の証(しるし)だった
宣伝も今迄とは違って大きくできなくなっていたけれど、
まだみんなは待っていてくれた
俺たちは非力だけれど、自力ででも前進する事を決意した

カズキは久しぶりの起爆剤
ROCK 'N' ROLL PEARL HARBORを作りあげ、
徳間ジャパンのNさんの協力の元、日本コロンビアでアルバムリリースした
プロデューサーにサンハウスや、SHEENA & THE ROKKETSのベーシスト
奈良敏博氏を迎え、頭脳警察のパンタ氏に楽曲を提供して頂いた。
頂いた曲は生歌と生ギターでアバウトに録音されていた。
この曲に関してもリハをやる時間は全く無くて、
ぶっつけ本番でアレンジし、レコーディングをやった。
カズキが歌詞を書き"WILD CAT A GO-GO"というタイトルになった。
そのコーラスではフィンガー・ファイブのアキラとマサオに
"AM FINGERS"という名で参加して頂いた
ROCK 'N' ROLL PEARL HARBORの楽曲では
アナーキーの中野茂さんに参加して貰い、
ジェットボーイズのオノチンや、コモンズのグレイスが駆けつけてくれた。
そして、ピアノでは今回の新譜でも参加してくれた伊藤ミキオに参加して貰った
夜中のレコーディング、
オノチンとグレイスは女性もいる中、
そんなのはお構いなしにフルチン姿でマイクに向かい絶叫した
"ワッケンロー!パールハーバー!"
そして友人から新しく機材車を譲って貰い、 ツアーへ出向く為、
新たなローディとして荘七(そうしち)や、サックスのゴウを加えた

そして新たな航海へ出かける為に、数ヶ月間重く下ろしていた錨をあげた
俺たちは新たな友を武器にROCK'N'ROLL PEARL HARBORツアーを開始した
そして事務所崩壊

サードアルバムを出した頃、俺たちも楽曲が底を尽きかけて
次を考えたら背筋が凍りつく思いになってきた。
その頃から俺たちは楽しみの給料日に給料を貰えない事が増えてきた
貰えてもその給料袋には必ず金融会社の名前が印刷してあった
○○ローン、○○ファイナンスの袋だった。
ボスはいつもタフでどんな有名な事務所の社長や、
業界人にも物怖じせず、機関銃の様なトークで相手を圧倒した
そのボスが力のない声で言った
君らも楽曲も底を尽きかけてきたし、ただガムシャラにやってきたけれど、
僕が思う程のセールスには到達しなかったね
(ボスは何かと言えばチェッカーズを引き合いにだしてた)
どうだろう、ココいらで半年程休んでタイアップ
(販促の為にCMソングや、ドラマの主題歌などに起用してもらう事)
のみを意識した曲をつくってみないか?
俺たちはコレで忙しさから開放され、自分の時間ができると思ったら、
今にでも空を飛べるくらい嬉しくなった。
そがん(そう)でしょボス、
ちょっと時間が必要ですよ
ソレから幾月かが過ぎた
俺たちは疲れもあり、楽曲を作るのも飽き飽きしてた。
ソレでもリハをやったり、
MTRというポータブルレコーディングマシーンみたいのを買い、
思い付いたら、直ぐに録音して溜めておいた
(このおかげで今回の新曲を作る事ができた)。
しかし、同じ様な曲ばかりできて
コレだという決定的なもんを作れなくなってた
結成当時は色んなアイデアが浮かんだ
パンクのみではなく、オールディーズのリフや、
ドゥーワップ、モータウンビートを取り入れたり
俺たちは3歳児の子供みたく色んなもんを吸収した。
それが3枚のアルバムを出した時点で
アイデアがそんなに浮かばなくなった
・・・と言うよりは、そのスタイルのみに固執し過ぎて、
その枠を飛び越える事ができなくなってたのかな
カズキは同じ音楽には飽き飽きしていたらしく進化を求めていた。
その頃から機材車ではカズキはポーグスをしきりに聴くようになっていた。
ソレが今のジュニアの礎(いしずえ)となっている気がする
それから数ヶ月、ボスからは何の連絡も無かった
いつも利用していた練習スタジオの社長から
もう何ヶ月もスタジオ代が未払になってるけどと催促された
そして後輩のコジマからも"家出少年のメロディ"のプロモビデオ製作費を請求しているけど、
事務所から何の連絡もないけどと電話があった
給料さえ貰えず家賃も数ヶ月滞納していた俺たちにはどうする事もできなかった
数日後レコード会社のNさんから連絡があった
お前らの次に制作する多額のレコーディング費用をボスに渡してあるんだが、
使い込みしてレコーディングどころの話ではなくなってきた
多額の金?給料も貰っていないぜ?!
俺たちはボスに説明を求めた
ボスは借金で苦しみレコード会社から前借りしたお金を
借金に当てたりして使い込んだ事を告白した…
事務所は当時から多額の借金を背負っていた
ボスはその借金を返済できる程の魅力を俺たちに感じたんだろう、
俺たちに自分の人生の全てを投げ打った
青二才の俺たちは今まで恩に預かった事も忘れ、
自分たち自信の行く末の不安だけに駆られ
そんなボスを詐欺呼ばわりし、何とか返済しろと迫った
当然多額の借金をしているボスに貸してくれる業者は一つもなかった
俺たちは徳間ジャパンとの契約がまだ残っていたにも関わらず、
文字通り干された
ソレでも徳間ジャパン所属のNさんは
俺たちを違うレコード会社からリリースする事を約束してくれた
俺たちは切実に迫った現実を受け入れざるを得なく、
自分たちだけの先行きのみしか考えられずにソレを機にボスとは縁を切り、
次のリリースの為にリハを続けた。
徳間ジャパンとの3年間の契約は切れ、
ゲームの駒は振り出しに戻った
俺たちが乗っかった船は座礁し、暗礁に乗り上げた
P.S. ボス、お元気ですか?

俺たちが着いて行こうと決めた大人はボスが初めてでした
いつか会えたら、酒でも飲んで次に航海するどでかい話しでもしたいですね
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一杯のかけうどん

大阪でLIVEを終え、名古屋へ向かう途中、
高速道のサービスエリアで朝食兼昼食をとった
飯を喰って出発する前に点呼をとった
みんな乗ったか?
フッカーが笑って言った
何で(点呼)?ちょっと心配になった?
うん

約20年前、俺たちが事務所に入って、
機材車で地方を回り始めてスグの頃だったと思う
まだ、マネージャーやローディーも付いておらず
楽器という楽器も少なく、各自一本づつ位しか楽器も持たず、
アンプも当然持っていなかったので
機材車の後ろの荷物置場には布団を敷いてツアーを回った
布団を敷いた後ろの荷物置場は特等席だった。
そして俺たちは地方へ行く長い道中、
サービスエリアで飯を食う事が唯一の楽しみだった。
俺は次の運転を控えていたので一人大の字になって
特等席で大イビキこいて寝てた。
ふと目を覚ますと車は停止したまま、中には誰も乗っていなかった。
ん、みんなション便でも行ったのかな?
俺もション便したくなったのでトイレへ向かい、用を足したあと、
うどんのツユの匂いに誘われ催眠術にでもかかった様に
うどん屋へ歩いて行き注文した。
"かけうどん"
メンバーはトイレには居なかった
みんな何処に行ってんだ、こんな狭いサービスエリアなのに…
トイレから機材車までの間にテーブルがあったので、
その内ココを通るだろうと思い、俺はうどんをテーブルに置いた
みんなが、俺にこう言うのを期待した
「おお!美味そうね!うどん喰っとうとや?俺も喰いたいな!」
うどん食いの先駆者(せんくしゃ)の俺は
「腹減ってたやろ?ま、一杯いっときな!」
を想像し、余裕をこいて喰ってた
喰った
すすった
飲み干した
ゲップした
あいつ等誰一人戻って来ない
機材車を振り返る
あーっ!
俺はつい大声をだした
さっきまであった機材車がMr.マリックのマジックに
かかったコインみたく消えていた
機材車があったはずの場所を俺は只一人モアイ像の如く見つめてた
放心状態で見つめてた
日が暮れるほど見つめてた
その時その瞬間、俺は只ひたすらモアイ像だった
10分間ほどモアイ像を続けた俺は我に返り
いかん、いかん、コレはあいつ等、俺を脅かす為のドッキリ作戦だな?!
慌てちゃあいつ等から笑われると思い、
よ~し見てろ、こっちが裏をかいて泡吹かせてやる!
ワクワクしながら宝捜しみたくあいつ等を捜す為、狭いサービスエリアを
あいつ等に見つからない様にコソコソと探検した。
トイレ、食事処、クマ無く捜した
木の裏、建物の裏、駐車場、サービスエリア内全部捜した
そして最後に機材車があったはずの場所に辿り着いた
…
俺様を残してあいつ等は旅立って行ってた
俺は無力だった
一人ぽっちて事に気づいた
案内所に行って迷子の子供みたく泣きながら放送して貰おうかとも考えた
赤い髪のヨウジロー君が迷子になってます、
お友達の方いらっしゃいましたら案内所までお願いします
ぅわ~ん、ダビヂド~、デドゥ~、ガズグゥイ~
バカらしい、真っ赤な頭して言えるかそんな事
その時俺は閃(ひらめ)いた
グローイング・アップの歌詞にもあるじゃないか、
ヒッチハイクで何処へでも~
俺は決めたヒッチハイクでLIVE会場まで乗り込む事を
以前、高校生の時にカズキや仲間達と大型トラックをヒッチハイクした時に
山の上に拉致されそうになった事が頭を過(よぎ)る
その時のトラックの運転手が無線で他のトラックの運転手に言った
ガー、ピ、ピー
只今、小僧がトラックに乗り込みました、例の山小屋連れて行きますか?どうぞ
ガー、ピ、ピー
ホガホガ、フゲフゲ、づれごんで(連れ込んで)ぐだざい、どうぞ
ガー、ピ、ピー
ラジャー、例の山小屋で!
まだケツの青い俺たちは恐怖に駆られ、
すんません!たった今用を思い出しました。
お母さんから魚を買って来てくれと言われていたので、ココで降ります
トラックの運ちゃんは
舌打ちし、他の運転手に無線で伝えた
ガー、ピ、ピー
ちっ、小僧共は降りると言ってますどうぞ
ガー、ピ、ピー
ホガホガ、フゲフゲ、ぎょぶごぅ(強行)じろ、どうぞ!
ガー、ピ、ピー
ラジャー、ではいつもの山小屋で
赤信号になってトラックが止まった瞬間飛び降りた
...
ヒッチハイクは俺にとってあの時の弱い俺へのリベンジだった
俺は映画の主人公よろしく、どでかい敵に向う様に
ゆっくりとした歩行で大型トラックまで歩き出した
トラックの前まで来た時に彼方向うから、今にも止まりそうな
白いポンコツ機材車がユックリまばゆい光を放ち走って来た
雪山で下山できなくなった遭難者みたく俺は大手を振ってアピールした
おお~い!俺はここだ~!
うぉ~い!違う、コッチだ~!
助けてくれ~!
心のなかでは泣きじゃくり嗚咽が止まらなかったが俺は余裕をかまし、
おう、何処行っとったとや?
まぁ、間違いもあるさ、
今後気をつけるように頼むぞ
常に上から目線だった
どうやらあいつ等は俺を見捨てたのではなく、俺がまだ後ろで
大イビキこいて寝ているもんだと思い普通に出発したらしい…
10キロほど走ってタイチローが気付き、路肩に寄せ
ゆっくりバック走行のままサービスエリア迄戻って来てくれた
その間約一時間、
俺はその時、初めてこいつ等の友情を感じた
そしてあの機材車が白馬に見えた最初で最後だった
そして俺たちは次の地へ向け旅立って行った…
フッカーに話したら、大笑いした
機材車の後ろではそんな話はどうでも良いらしく、カズキと20年前からローディとして
手伝ってくれてる荘七が大イビキこいて寝ていた

" VIVA LA SCANDAL PARTY "

徳間ジャパンからリリースした3RDアルバム" VIVA LA SCANDAL PARTY "
の中に収録した "家出少年のメロディ"という曲がある。
この曲を好きと言ってくれる人が以外と多い。
この曲を徳間ジャパンからリリースした時に俺の高校の後輩で映画監督を目指し
ているコジマってヤツにプロモーションビデオを撮って貰った。
コジマと聞けば業界人でその名を知らぬ人はいないと言うほど活躍している。
今ではミュージックビデオ、CM、TV関係の映像ディレクターを担当し、
第一線で活躍している。
プロモ撮りの前夜から朝迄俺の家(前田ビル)に仲間が20人位集り飲んでいた。
酔ったサダユキさん(カズキの兄)はパンクの修行に熱が入り眠気でボーッとして
聞く気もない仲間に講釈をたれてた。
その後ろに蠢(うごめ)く小さい影にも気付かずにな。
丑三つ時(うしみつどき)を過ぎた
前田ビルに一つの金属音が鳴り響いた
チョキン
真剣な眼差しで熱く語るサダユキさんの背後から小さい影が
サダユキさんの前髪5ミリ位を残しスパッと切り落とした。
一瞬何が身辺に起こったか分からないサダユキさんはそれでも熱く語っていた。
しかし、窓から入ってくるそよ風が許さなかった
サダユキさんは頭に涼しい風を受け、頭に異変を感じ、すっ飛んで台所迄行き
鏡で自分の顔を見たとたん、絶叫した
あーっ!
サダユキさんは泣きそうな顔になってた。
サダユキさんは落ち武者みたいな情け無い貧相な顔に変貌(へんぼう)した。
その騒動の中、前田ビルに第二の金属音が鳴り響いた。
チョキン
あーっ!
声の主は今日"家出少年のメロディ"のプロモビデオ撮りを控えていたタイチロー
の声だった。
タイチローの脳天は1センチ程残って河童(カッパ)みたく変身した。
落ち武者2号が出来上がった。
数分後、第三の金属音が前田ビルに鳴り響いた。
チョキン
あーっ!
今度はカズキの声だった。
タイチローが小さい影を許さなかった。
小さく蠢く影、悪魔の産みの落とし児の正体はカズキだった。
カズキも脳天の髪が無くなっていた。
悲しい事に、横から引っ張って持ってきてもバーコードに足りない位の長さに変
貌していた。
そして落ち武者3号が出来上がった。
当然の報(むく)いである。
タイチローも、カズキも泣きそうになってた
何かヤバイ空気が部屋に立ち込め、朝日が射し込み始めた前田ビルはパニックに
陥(おちい)った
仲間たちは第四の落ち武者は誰だろうと恐怖に震えた
当時THE SPEAKERSにいたパッシー(現La'alts!)は俺に「何かヤバイ雰囲気になっ
てきたね」と震え声でポッソリ言った。
震えた手の箸(はし)でつかんだ肉は口に入る事なくホッペの上にベットリくっ付
き、ホッペの上でプルプルと小刻みに上下運動をくりかえしていた。
パッシーは動揺で箸のストライクゾーンさえも外していた。
俺とパッシーは玄関のドアを開け静かに退散した。
恐怖に陥った仲間たちは蜘蛛の子を散らす勢いで去って行き、前田ビルの中は河
童頭のタイチローを残し、もぬけの殻となった。
俺は家に戻り、静かにドアを開け、小さい影がいないかキョロキョロ見回した。
俺はプロモ撮りどうするんだ?と思い、タイチローの頭を梳きバサミで整えた。
大工のオッさんみたくなった。
ブリーチと赤いカラーを入れ何とかキャットウーマンっぽくごまかした。
都内のスタジオ…
当然俺たちは一睡もしていなかった。
カズキは自分でデコボコのボウズ頭をこしらえ、ベレー帽を被(かぶ)りプロモ撮
りのスタジオに現れた。
スタジオの照明が俺たち4人を煌々(こうこう)と照らしだす
カメラの前に置かれたCDラジカセから録り終えたばかりの"家出少年のメロディ"
のイントロが流れ始めた
気分を一新した俺たちは楽器やマイクを振り上げ、コジマが回すカメラに向かい
大声を張り上げ戦闘体制に入った。

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